人間中心設計を公共政策に応用するために必要なこと

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米国では「人間中心設計をベースにした政策づくり」がIT企業主導で進んでいるそうです。
人間中心設計がソーシャルイノベーションへ与える影響を説明している記事を見つけました。
https://ssir.org/articles/entry/when_to_use_user_centered_design_for_public_policy

アメリカの政策の失敗とIT企業の参入

米国では、オバマ大統領就任当初の2010年ごろから、シリコンバレーのIT企業が人間中心設計を政策立案に反映させるべく動いています。

背景としては、低所得者向けの医療保険であるオバマケアが結果的に加入者の負担を増やしたり、中東での戦争からの撤退が遅れたりといった政策がうまくいかなったことが挙げられます。

このような状況で、シリコンバレーの企業群が人間中心設計やデザインシンキングの思考を政策分野に提言し、市民の声を政策に反映するプロセスの改善に努めてきました。

人間中心設計×公共政策のトレンド

人間中心設計は、もともとは営利追求のスタートアップで生まれた考え方です。
最近だとUX、UXデザイン、UX/UIなどの概念で、頻繁にビジネスセクターの話題に上がってきます。

単純化して考えると、ユーザーの欲求や行動に合わせてサービスを設計しようという思考ですが、近年はデザインコンサルティングファームやGoogle社の経営陣がソーシャルセクターに応用することの有用性を訴えているそうです。

「政策によって影響を受ける市民個々人の視点から、政策の立案を検討するべき」という考え方です。

政策への応用の難しさ

スタートアップがサービスを設計する際には、特定の顧客グループを満足させることが前提です。
しかし政策立案の場合、満足させるべき対象が多岐にわたったり、影響を与えるグループ間の利害を両立できないことがあります。
「誰を満足させるか」の視点は、政策立案に人間中心設計を応用する上で、最も解決のハードルが高い問題です。

ハードルを越えて人間中心設計を応用するには

上記のような問題を解決しつつ、人間中心設計を応用するためには、3つの条件のいずれかを満たす状況が必要だと、この記事の筆者は言っています。

1.政策の達成目標が市民の行動促進である場合
例えば特定の属性の人に制度への申し込みを促す、書類の申請を促すといった政策では、人間中心設計は効果を発揮します。
対象者の心理をとらえて、行動しやすい動線を設計するのは営利企業・マーケティングの得意とするところでしょう。
オバマケアでは、申し込みの手順が複雑だったことが失敗とみなされた一要因だそうです。

2.特定のグループの市民に対する政策の場合
人間中心設計では様々なグループの利害調整は難しいですが、両立が必要なければ効果を発揮します。
最も議論がこじれがちな、「誰のための政策か」を決める手間が少なければ、対象者に合わせて政策がデザインできます。

3.政策を作る人よりも当事者の方が事情に詳しい場合
政策を立案して採択するのは政治家ですが、政治家が政策の対象者を代弁できるとは限りません。
女性のヘルスケアの政策を男性議員中心で議論したり、犯罪予防の政策を白人男性だけで議論したり、労働政策を異性愛者ばかりで議論するなどは、近年批判された政策立案プロセスです。

各分野の専門家にも一般市民にも、政策が再検討を必要としていることは明らかになっています。
各種社会課題において、問題の構造は多くの場合明らかになっていますが、適切な手法で最適な解決策を実行することが最大の課題となっています。

この課題を解決するためにも、マクロな視点で見るだけでなく、政策が影響を与える個人単位から、政策立案を検討する必要があるでしょう。

人間中心設計の公共政策の事例

公共政策に近しい分野で人間中心設計を実現している仕組みをいくつか挙げてみました。

1.インターネット・ゲートキーパー NPO法人OVA
自殺に関する検索をした人に相談を促す広告を掲載し、継続的なネット相談を提供して相談者の生活課題を一緒に解決する自殺予防のための取り組みです。
OVAが2014年に開始し、2018年以降自治体によって導入され始めました。
検索に対して情報を届ける、ユーザーの使いやすいネットで相談するなど、ユーザーの行動を先取りした事業設計です。

2.ハウジングファースト 認定NPO法人世界の医療団など
ホームレス支援の分野で、まずは一人で住める住居を提供する取り組みです。
ホームレス状態の方の多くが、仕事がない→収入がない→住所がない→就職ができないという状態にあります。
シェルターなどの公的な滞在施設も、個々人の生活パターンに合わせられない、環境があまりよくないといった課題があります。
ハウジングファーストで最初に住居を提供し、就職→収入獲得→生活面で安定という循環に持っていきます。

3.がん検診受診促進 株式会社キャンサースキャン
マーケティングの知見を用いて、がん検診未受診者の受診率を向上させています。
ターゲットを分類し、最適なチャネルとコンテンツを設計して受診率を挙げています。
マーケティングを健康増進に持ち込むだけでなく、RCTによって効果を統計的に証明したり、ソーシャルインパクトボンドを活用して投資案件化するなど、政策を総合的にデザインしています。

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