ファンドレイジングについて学ぶ中で、難しいのが特殊な言葉や概念です。
一般的なマーケティングの用語と異なり、フィランソロピー関係の特殊な語句が多く存在します。
このような語句や概念は、ファンドレイジング協会によって整理されてきました。
ファンドレイジングを学ぶ中で、先進国である米国の現状も触れる必要があるでしょう。
先日courseraを使ってUC Davisのファンドレイジングの講義を受けてみて、日本のファンドレイジング業界では聞きなれない言葉や概念をいくつか学んだので、雑記レベルで共有します。
目次
- 用語と概念の整理
- Ethics:ファンドレイジングの倫理
- Donoro process:寄付のプロセス
- 寄付の種類とタイミング
- 見込み寄付者の開拓
- その他:ファンドレイザーのキャリアについて
講座のURL↓
https://www.coursera.org/specializations/fundraising-development
用語と概念の整理
ファンドレイジングに関わる人であれば聞いたことがある言葉は多いと思いますが、一部聞きなれない概念もあるのではないでしょうか。
- Development:発展
寄付者との関係構築を表す用語。
例)寄付者との関係をDevelopする。 - Benefactors:恩人
最近は寄付者donorをこう呼ぶこともあるそう。 - Major gifts:大口寄付
金銭的な寄付以外にも、証券などの資産も含まれる。実際に寄付をするまで12~24か月間検討されることが多い。 - Planned gift:遺贈
55歳以降に検討されることが多い。 - Stewardship:管理責任
寄付者にどう感謝を示すか、どう説明責任を果たすかの考え方。 - Cultivation:育成
寄付者との関係を構築し、どうエンゲージメントを生むかの考え方。
個人の情熱や関心を自団体の理念や存在意義に結び付けることが求められる。 - Captital campaigns:資産キャンペーン
事業に必要な施設の建設、改修などを目的とした寄付キャンペーン。 - Comprehensive campaign:期間限定のキャンペーン
- Endowment
非営利団体が寄付を集めて金融商品に投資を行うこと。
投資から得られた収益を団体の事業に使ったり、積み立て投資に回したりして収益を増やす。 - Transformational donor:変革的寄付
事業内容や団体のありかたの変化に直結するほどの大規模な寄付。
一般的には100M$=1億円以上がこれに当てはまる。
Ethics:ファンドレイジングの倫理
倫理に関して、米国では標準化・文書化された考え方が存在するようです。
Donor bill of rights:権利章典
米国のファンドレイジング関係の協会や団体が作成した、寄付者の権利をまとめた10項目。
寄付者には以下の権利が保障される。
- 団体の理念、寄付金の使途、寄付金の使用能力を知らされる権利
- 団体の理事の身元を知らされ、説明責任を求める権利
- 最新の財務諸表にアクセスできる権利
- 寄付金が当初の目的に使用されることを保証される権利
- 適切な同意や説明を受ける権利
- 寄付に関する情報が敬意を持って管理され、法律が及ぶ範囲で守秘義務を守って管理される権利
- 寄付者の関心のある団体に所属する個人と寄付者の関係が職業的な関係である権利
- 寄付を募っている者が、団体のボランティア、職員もしくは雇用されている募集者であることを知らされる権利
- 団体が共有する可能性のあるメーリングリストから名前を削除する機会を設けられる権利
- 寄付をする際に気軽に質問し、適切・信頼性のある・率直な回答を得る権利
実際の業務上は、寄付の使途の限定、理事やガバナンスの透明性、財務情報の公開、試用使途とインパクトの報告、寄付者情報の公開管理(米国では州法で寄付者の公開が義務の場合もある)、ファンドレイジングの委託の有無の説明、メーリングリストのオプトインアウトの管理などが必要となるでしょう。
権利を明文化する米国の文化的背景が強く影響してそうな章典です。
Donor process:寄付のプロセス
ファンドレイジングを行う上で、寄付集めのプロセスもある程度標準化されています。
ここではそのプロセスでどのような言葉が使われているかを紹介します。
寄付集めのための4つのプロセスはIdentify,Cultivate,Solicit,Stewardに分類されます。
Devolopmentを行うためのプロセスです。
- Identify:特定
Prospect research=見込み寄付者を調査する段階。合法的に入手できる名簿を購入したり、紹介を受けるなど。 - Cultivate:育成
最初の接触から関係構築までの段階。
自団体の説明をしつつ、相手の関心や何に情熱を持っているのかなどヒアリングを行う。 - Soclicit:お願い
団体が実施している特定のプログラム・事業のために、金額を提示して寄付をお願いする。
原則は対面でお願いする。
感情面や税制などを加味して適切なタイミングを計る。 - Steward:報告と説明
寄付の使い道とインパクトを報告する。
更なる信頼、関係性の強化につなげる。
寄付の種類とタイミング
- Annual:年間寄付
少額の寄付が中心、オンラインでのファドレイジングが中心。 - Major:大口寄付
金銭以外の金融商品も含む。3~5年のスパンで開拓が必要。 - Planned:遺贈
55歳以降に検討することが多い。多くの場合、ファイナンシャルプランナーが関係する。 - Comprehensive:期間限定
特定の目標金額を達成する必要があるので、プロジェクトのスケジュール感を提示して寄付しやすくする。
期間内に寄付することの緊急性、使途の分かりやすさ、インパクトを強調する。 - Endowment:投資
投資収益は、主に団体の管理費に使用することが多い。
見込み寄付者の開拓
米国と日本で大きく異なる事情の一つに、寄付者の開拓(=寄付してくれそうな方の発見)の手法があると感じました。
多くの寄付者は、社会に還元したい・より良くしたい気持ちや、世の中へのインパクト志向、団体ミッションへの共感、寄付を求められた経験などが、寄付のきっかけとなっています。
このようなきっかけを提供する相手を見つけるプロセスも、整備されている印象です。
見込み寄付者の開拓の流れとして、見込み寄付者の特定、リレーションシップ構築、データ分析の3プロセスが挙げられています。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
見込み寄付者の特定
確認すべき項目
- 自団体への関心
- 自団体との関係性
- 寄付の習慣
- 寄付の金銭的キャパシティ
どう探すか
- 人づて
団体の理事やボランティア、継続寄付者からの紹介で探す。 - データベース
持っている関係者のデータベースから、婚姻状況、子どもの有無、最終学歴、在住地域などで絞り込んで探す。 - Circle of influence meeting
既存の寄付者や団体関係者が、普段どのような場に参加しているのか、どのようなトピックに関心があるのかをヒアリングする。
得られた結果から、新しく接点を得られそうな場を探す。 - 出版
新聞や業界紙などの出版物 - 卒業生
UC davisでは、OBOGのワイン同好会などのイベントを開いて卒業生との接触を図っている。
リレーションシップ構築
- 一度寄付をお願いしてみる
- 団体とのリレーションシップ
イベントに来てくれているかなど、行動面での関わりからリレーションを判断する - その人のキャリア(転職など)、団体の認知露出との接触などの個人的な出来事を把握してフォローする
データ分析
上記の見込み寄付者と関係を構築したうえで、データを分析する。
具体的には、グループ化して寄付してくれそうな度合でグループに分類したり、リレーション強化の成果を測定したり。
RaisersEdgeなどの分析ソフトを使用して管理したり。
その他:ファンドレイザーのキャリアについて
非営利組織の増加によって、ファンドレイザー需要が増加しているが、現状70万~100万人が米国内で不足しているといわれている。
多くのファンドレイザーはセカンドキャリアとしてスタートしており、前職の経験によって関わる寄付の種類も異なる。
マーケティングやウェブ関係ならAnnual、BtoC営業ならMajor、法律や資産ならPlanned、データベースやライターならStewardshipに関わるといった形が多い。
他にファンドレイザーに活かせる経験として、財団のスタッフ、企業のcsr部門、潜在顧客リサーチ、コミュニケーション関係の職、イベントプランナー、キャンペーンマネジメントなどが挙げられる。
米国のファンドレイジング事情を学んでみて
- 規範の文書化、プロセスの明文化・標準化、概念の定義の統一など、寄付集めをビジネスとして捉えて再現性を追求している点が特徴だと思います。
- 寄付が資産管理、自己実現、人間関係構築など、米国では普段の生活に強く根付いている背景が浮かび上がってきました。