統計データで社会課題を解決するData Jusitice

大規模なIT企業の台頭、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)など、データが発揮する価値は営利・非営利問わず大きくなっています。
NPO等の非営利組織が取り組む社会課題解決分野も例外ではなく、社会的インパクトの測定が現在の大きなトレンドです。

米国ではData Justiceの考えに基づいて、NPO・コミュニティ・大学などの民間主導でデータを収集して施策・政策に活用する動きが生まれています。

公的なデータの正確性や調査方法の不備によって社会課題の解決が進まなかったり、逆効果の施策が実施されている現状の解決のために生まれた動きです。

フィランソロピスト(社会投資家や篤志家)がこの動きをサポートすることで、社会課題解決や社会的インパクトが増大する可能性について、米国の研究を紹介します。
Stanford Social Innovation Review:How Philanthropy Can Help Lead on Data Justice

目次

  • 統計データが不足している事例:米国先住民
  • Data Jusiticeの実例:コミュニティ主導の統計調査
  • Data Justice実現に必要な6原則
  • 日本でData Justiceは広がるか

統計データが不足している事例:米国先住民

米国でData Jusiticeが提唱されている背景として、統計データの不足による政策の失敗があります。

米国先住民(過去にインディアンと呼ばれた人達)に関するデータ不足は長らく課題となっていました。
先住民コミュニティは、サンプル不足による統計データの不完全さから「注釈付きの民族」と表現されることさえありました。

要因として、調査項目や定義が政府のデータベースや州・市町村ごとに統一されていないことが挙げられており、国勢調査とデータの照合さえできない状態でした。
雇用統計で先住民だけ除外されることさえ起きています。

Data Jusiticeの実例:コミュニティ主導の統計調査

政府・自治体主導の調査がうまくいっていないことを受けて、先住民と大学・研究機関が協力して調査を行うスキームが生まれています。

コミュニティに基礎を置く参加型研究(Community-Based Participatory Research)と呼ばれるこの手法では、コミュニティを調査対象として調べるのではなく、調査協力者として一緒に調査設計・実施・分析まで協働します。
調査の正確性を向上させつつ、課題に対する現実的な施策を実施可能です。

実際にテキサス州のカジノが閉鎖された際に、先住民への経済的損失を地元大学と共同で調査した例があります。
国勢調査に反映されなかった正確な現状を浮かび上がらせ、住宅政策につながりました。

また雇用統計の分野でも、除外されていた伝統工芸従事者を算入した調査が行われました。
国の雇用統計では失業率が88%でしたが、独自調査では調査対象者の78%が伝統工芸に従事していました。
この結果から、先住民向けの雇用政策を中小事業者・自営業者向けの小規模ローン充実にシフトするまでに至っています。

Data Justice実現に必要な6原則

コミュニティの手でデータを集め、地域の課題解決に役立てるために、フィランソロピストが投資・寄付するにあたって考えるべき要素は以下の6点です。

  1. 既存のデータを把握する
    • 過去に行われた調査は政府・学術機関が専門誌で発行しているかもしれないので調査する。
  2. 実践して学ぶ
    • フィランソロピストは資金を提供して、調査の結果だけでなく過程で学んだこと(成功・失敗)や今後の示唆を記録する。
  3. 投資・寄付の基準としてコミュニティとの協働を盛り込む
    • 助成申請段階で、コミュニティにどう入り込んで調査を行うかを説明させる。
  4. 量的調査だけでなく質的調査も行って多面的にデータを集める
    • 質的調査を織り交ぜることで、量的調査の仮説立案を高速・正確にするなど、量的調査以外も行う。
  5. 調査や見込まれる結果について透明性を持つ
    • 調査を行うコミュニティに対して、調査手法や目的、情報管理について透明な説明をする。
  6. 多分野で参照されるデータを集める
    • コミュニティに関する調査は貴重なため、多様な課題解決に役立つ可能性がある。コミュニティが自分たちでデータを使って課題解決を行えるようになることを目指す。

日本でData Justiceは広がるか

そもそもフィランソロピストの数や社会的投資・寄付の規模が米国と比較して小さい日本ですが、コミュニティで統計データを集めるData Justiceを促進する仕組みは存在します。

トヨタ財団のしらべる助成では、以下のように地域の課題解決のための調査に助成が行われています。

地域や人々を取り巻く環境や生じている課題を明らかにする「調査」、およびその結果を踏まえた「事業戦略の立案」までの【調査活動】への助成

https://www.toyotafound.or.jp/community/2019/

この助成制度は地域の課題を解決するために、調査を行うことだけでなく調査の過程で一緒に解決に取り組めるステークホルダーを広げることを推奨しています。

学術研究助成や特定の課題に関してはすでに多数の助成制度が存在します。
Data Justiceの考え方が日本に広がることで、調査と実態を踏まえた施策実施が今後広がるかもしれません。